あの夏の日々と今日は繋がっている『青春18×2 君へと続く道』レビュー

2024/04/21

『新聞記者』(19)、『余命10年』(22)の藤井道人が脚本・監督を務め、台湾で話題となったジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本漫車流浪記』を映画化、日本・台湾合作で製作された『青春18×2 君へと続く道』が5月3日より公開される。18年前と現在、台湾と日本が交錯するノスタルジックなラブストーリーだ。

現在の台湾、36歳のジミー(シュー・グァンハン)は台北でのキャリアに挫折し実家のある台南へ帰ってきた。失意の中ジミーが手にとったのは一枚のハガキ。それはかつて日本人のアミ(清原果耶)から送られたハガキだった。

18年前の台湾、高校三年生のジミーは夏休みにカラオケ店でアルバイトに勤しんでいた。期待した出会いがなく落胆するジミーの前に4歳年上のバックパッカー、アミが現れる。カラオケ店で働き出したアミと時間を過ごすうち、ジミーは彼女に恋心を抱くようになる。しかし突然アミが日本へ帰国することになり、気落ちするジミーにアミはある約束を提案する。

再び現在ーー。18年前の約束を果たすためジミーはアミが生まれ育った日本へ旅立つ決意をする。東京から鎌倉、長野、新潟と各地を訪れながらアミの故郷・福島を目指す旅の途中ジミーは様々な人々と出会い、その度にアミと過ごした日々が鮮やかに胸に蘇る。旅の果てに、ジミーが辿り着く約束の結末とは。

人は知らぬ間に年を取る。青春時代に抱いた夢や憧れは繰り返す日々にいつの間にか埋没し、自分が何をしたかったのかすら忘れてしまう。心を失くしたせいで築き上げた全てを失ったジミーはようやく、18年前から心に燻り続ける初恋と向き合う決心をする。アミとの思い出を一つずつ噛み締めるようにジミーは鈍行列車に乗り東京から福島を目指すのだが、その道中には様々なバックグラウンドをもつ人々との出会いが待っていた。

長野で居酒屋を営む台湾出身のリュウ(ジョセフ・チャン)、18歳のバックパッカー・幸次(道枝駿佑)、新潟のネットカフェ店員・由紀子(黒木華)、それぞれがジミーの旅路を後押しする。そして彼らとの出会いはジミーにアミと過ごした台湾の夏の日々を思い出させる。バイト仲間ではしゃいだ海岸、バイクに2人乗りで駆け抜けたロータリー、展望台から見た夜景、デートで訪れた映画館…。全てが夢のように輝いていて、今の自分とはかけ離れていて、もう決して手が届かないように思っていたがそうではなかった。あの日々は昔からずっと今も変わらず側にある、そう気づいた時ジミーは初恋のその先へ踏み出していくのだ。

台湾の人気俳優シュー・グァンハンがジミー役、日本からは数々の映画やドラマに主演する俳優の清原果耶がアミ役を務めた。18年前の二人が織り成す恋模様は不器用で、もどかしくて、とびっきりにきらきらしていて「こんな青春があったらいいのに」と思わずにはいられない。本作は成長の物語でもあり同時に胸を震わす秀逸なラブストーリーでもあるのだ。

主演の二人も素晴らしく、シュー・グァンハン演じるジミーは18年前と現在では違う人物が演じているかのようだ。陽気でシャイな18歳の少年と人生につまずいた36歳の男性を完璧に、しかもどちらもとても魅力的に演じ分けている。清原果耶が演じたアミは明るく気さくでチャーミングだが同時にミステリアスな女性でもある。悩み、葛藤しながらもひたむきに人生を生きようとするアミは清原果耶によって生き生きと命を吹き込まれている。共演には台湾からジョセフ・チャン、日本からは道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳と日台の豪華キャストが出演している。台湾と日本各地の美しいロケーションの数々も存分に描かれており、それらはより一層物語の切なさを掻き立てる。

青春の日々に力を与えられ、次の人生へと歩き出す。いつまでも心にしまっておきたい宝物のような映画に是非劇場で浸って欲しい。

文　小林サク